ハーグ条約と子ども。国際離婚で知っておきたい大切なことは?

「パートナーに子供が海外に連れ去られたらどうする?」

「ハーグ条約って何?」

「どんなケースでハーグ条約が問題になる?」

こんにちは。横浜で行政書士をしている鈴木よしきです。
近年、国際結婚・国際離婚が増えるなかで、

「子どもをどこで育てるのか」「勝手に連れて帰ってもいいのか?」

といったトラブルが増えています。

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親のトラブルが国際結婚だともろに、子供に波及してしまいますからね…。

今回は、そんな問題に関係する【ハーグ条約】と【子どもの親権】について、できるだけわかりやすくお話しします。

ハーグ条約ってなに?

正式には
「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」
という、ちょっと長い名前の国際条約です。

海外に連れていかれた子供に関する国際的なルール

この条約は、簡単に言えば…

勝手に子どもを国外に連れて行った親に対して、「元の国に子どもを戻して!」と請求できる国際ルールです。

条約の本文(第1条:目的部分)を確認してみましょう。

この条約は、次のことを目的とする。a いずれかの締約国に不法に連れ去られ、又はいずれかの締約国において不法に留置されている子の迅速な返還を確保すること。b 一の締約国の法令に基づく監護の権利及び接触の権利が他の締約国において効果的に尊重されることを確保すること。

出典元:外務省 国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(和訳)

国際間での子供の処遇に関して、①勝手な連れ去り、そして②関与の拒絶を避けるための条約だということがわかります。

ハーグ条約の内容を表でまとめてみる

以下の表でざっくりイメージしてみましょう。

項目内容
対象国際離婚や別居中の子どもの連れ去り
目的子どもの「元の生活場所」に戻すこと
判断されること子の返還の要否(親権の帰属は判断しない)
適用対象の子ども16歳未満の子ども

ハーグ条約が守っているものは、親権とは何が違うのか?

よくある誤解には、以下のようなものがあります。

「ハーグ条約で親権を決めてくれるんでしょ?」

これに関しては、答えは「ノー」です。

守っているのは、子供を不当に連れ去られたりしないこと=事実上の状態の回復であって、親権という法律上の権利ではありません。

そもそも親権とは?

親権とは、子どもを養育・監護したり、法律行為を代行する「法律上の権利と義務」のこと。

日本では離婚後、基本的に「どちらか一方の親」にしか親権が認められません(単独親権)

つまり、子と生活を共にしてその法律的な代理権によって、庇護をする権利となります。

ポイントは、「法律上、子の人生を左右するほどの代理権を持つ」ということになります。

ハーグ条約は親権を判断しない

ハーグ条約が判断するのはあくまで、

だけなんです。

要するに、親権を決める前段階で、法律上の有効な手続きもなく、実力行使された場合、

「その実力行使はさすがにいけませんよ」となだめる、イメージとしてはそのようなルールとなっています。

国際間の子供問題でのトラブルはどんなもの?

以下は、実際に多く見られる典型的なケースです。

ケース内容結果(ハーグ条約の適用)
アメリカ在住中に日本人の母が子どもを連れて日本に帰国父親の同意なく出国アメリカ側から返還請求 → 日本で返還審査
日本在住中に外国人の父が子を母国へ連れ去る母親に無断で出国母親が返還請求 → 外国で審査
フランスで別居中に母が一時帰国のまま日本に滞在一時的な同意があった裁判で「連れ去りにあたるか」が争点に

返還が認められない例もある?

もちろん、無制限に返還が認められるわけではありません。

返還が認められるのは、「不当な」ケースです。

この条約にも、以下のような「例外規定」があります。

例外内容主な例
子どもに重大な危険がある場合DVや虐待の疑いがある
子どもが返還を強く拒否している一定の年齢・成熟度がある場合
長期間が経過し、環境が安定している1年以上経過し、生活が定着しているなど

これらの事情があると、返還が拒否される可能性もあるため、「無条件で戻されるわけではない」のが重要なポイントです。

条約締結国間でしか意味がない

また、条約というのは国際的な取り決めで、ある種国同士の合意に基づいて効力が発揮されます。

つまり、「条約を受け入れるよ」という合意がない場合はこのハーグ条約も関係がなくなってしまいます。

その場合、もちろん、道義としては返還を認めるかもしれませんが、

国際ルール上の返還義務は生じない、ということになります。

日本の対応と手続きの流れ

ハーグ条約が始まったのが1980年。

日本は長年未加入でしたが、2014年にハーグ条約に加盟しています。

日本における手続き

以下のような流れで手続きが進みます:

  1. 外務省(中央当局)へ申請
  2. 連れ去った親と子の場所の把握
  3. 協議での解決を目指す
  4. 日本の家庭裁判所(大阪、東京)への申立
  5. 子供の返還請求が決まる

もちろんこれらの手続きはあくまでも流れであって、実際は骨の折れる作業になります。

最後にハーグ条約の内容をまとめてみる

  • ハーグ条約は「親権」ではなく「元の国に戻す」ための条約
  • 国際離婚時に片親が子を無断で国外へ連れ出すとトラブルに
  • 日本でも返還手続きが進むようになっている(2014年加盟)
  • 子どもの福祉が最優先。法律相談・専門家への相談が重要

ハーグ条約と国際離婚。行政書士として

ハーグ条約に関するご相談は、

「まだ連れ去りはしていないけど…」という段階からでもご相談いただけます。

国際離婚・親権トラブルは感情的にも法的にも非常に複雑です。

離婚となると、どうしても調停や裁判ということになり、どちらかといえば最終的には弁護士の領分とも言えます。

行政書士としてできるサポートは限られますが、以下のような場面でお力になれます。

  • 行政書士法で許されている書類作成や事実関係の整理
  • 外務省や弁護士との橋渡し
  • 本人申請のアドバイス(海外文書翻訳なども含む)

国際的な子どもをめぐるトラブルを防ぐには、まず「正しい知識」が第一歩です。

不安な方、これから国際離婚を考えている方は、ぜひ一度ご相談ください。

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